01.寝坊
自分以外は誰もいない日のはずだった。
ゆっくり、昼前くらいまで寝過ごしてから、好きなお菓子作りでもと考えて。
幸せな気分で、休日の朝に眠りについた。
仕事終わり、の話し。
が。
目を開けるとそこには家を出ているはずの、兄の姿を良守はみとめた。
ありえねえ。
つぶやいた言葉は、声になったのかわからない。
けれども、兄はそれを合図にしたかのように笑って口を開いた。
「お寝坊さんだねえ、お前。もう、みんな出かけたよ」
ちらり、と目覚まし時計をみやれば。
そこはまだ九時すぎを指していて。
ああ、俺の休日……と良守は嘆かずにはいられなかったのである。
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ある休日を05まで続けたいと…思います。多分。
02.ふて寝
時計をみて、兄をみて。
状況はあまりわからなかったが、良守はもう一度目を瞑った。
こいつに起こされるいわれはないのだ、と。
「よしもりーよーしもりー。朝だよ」
ごろんと、横向きになる。
拒絶の現れを良守なりに示してみたが、いかんせん兄は図太い。
そんな良守に気づいているのに気づかないふり。
「にーちゃん、さみしいよー。ね、起きてって」
「ねーってば。朝ご飯を一緒に食べよう。久しぶりだろ?」
「折角、美味しいケーキ買ってきたのになあ」
負けるか、負けるもんか。
ケーキの誘惑には抗いにくいけど。
俺は寝たいんだ、と良守は自分に言い聞かす。
けれども。
「そういえば、昔、お前よくふて寝してたなあ」
「!」
「ふて寝するときって、大体横向きなんだよな」
「っ」
「ってことは、今ふて寝?」
ふて寝じゃねえーっ!
思わず負けず嫌いの血が叫んでしまった良守だった。
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つづく
03.昼寝
眠いのに、と思いつつ。
良守はぼうっと、今の机の前に座る。
兄が温めて、並べた美味しそうな朝食。
父の手作りはいつだっておいしい。
けれど。
なぜか隣に兄の姿。
「誰もいねーんだから、他に座れよ」
「えー定位置がいいじゃない」
普段いないくせに、とぼそりとつぶやく。
兄はいつもどおり気づかないふり。
壁の時間を見る。
良守にとってはまだ寝始めたばかりで、早朝と言ってもいい。
そんなことくらい、同じような仕事をしているのだろう兄も同じだろうに、兄の睡眠時間は短いらしい。
少しうらやましいな、と良守は思う。
良守は隣の幼なじみや兄に比べて、睡眠時間が多いことに気づいていた。
力の配分を考えて動かないことも自覚しているので、その所為かもしれないが。
眠気さえなければ、もっとできるのに。
そう思いながらも、良守は昼寝はいつできるかなと思いながら重い瞼で瞬きをした。
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つづく
04.うたた寝
宿題を見てやろう、なんて言われて。
不本意ながらも良守は頷いた。
眠気のせいで、もうなんでもいいと投げやりの気分だったのだ。
朝食を片づけて、再び並んで教科書とにらめっこ。
久しぶりだなあ、と横で楽しそうな兄を見ると、良守は平和だなあと思う。
夜になればまた戦うのに、昼間は平和な現実。
良守にとって当然すぎることを、普段いない人間が側にいるだけで不思議に思うのはなぜだろう。
ぬるま湯につかっているような心地よさが、眠気と一緒に良守を包み込む。
このまま、気持ちいいまま目を瞑ろうとしたのに。
「こら、うたた寝しないの」
と、兄にデコピンをされてしまった。
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つづく
05.添い寝
「あーもー」
ぶるぶる、と首を振る良守。
宿題はなんとか終えた昼前だが、眠気はピークだった。
「なんなの」
「俺はねむいの」
「そっか」
さんざん振り回されたので、今回も受け入れられないと良守は思っていたが、案外あっさりと兄は頷いた。
「そっか、眠いんだ」
「ねむい、んだよ」
「じゃあ、昼寝しよっか」
「……しよっか、ってなに」
だけれど、聞き捨てならない言葉に良守は兄を見る。
そのとたん、天井が視界を占めた。
少しだけ考えて、良守は押し倒されたのだと気づく。
「あにき」
「うん、寝よう寝よう」
肩に回された腕が、記憶にある温度より高い。
なんだ、結局お前も眠いんじゃねーか。
言おうとした良守の言葉は兄の深い呼吸にかき消された。
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そんなかんじのへいわないちにち。