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雫と欠片ブログ
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正良ss未完です。
「この我が儘な僕たちを」













「兄貴、」



襖が勢いよく、音を立てて開けられた。

着替えの途中だった正守は、その声の主をふり返る。

用があったからわざわざ「大嫌い」な兄の部屋を尋ねただろう弟は、目を見開いたまま呆然としていた。



「良守?なに?」

「…なんで、兄貴」

「え?」



きず、と良守の唇が動いた。

声は掠れてはいたが、どうにか正守の耳には届く。

傷?と正守は着替え途中の自分の体を見回す。

確かに妖と戦闘をしているのだから傷くらいできる。強くなる為に率先して妖と戦ってきたのだから当然のことだ。

けれど、弟のようないっそ無防備とも言える闘いはしたことがない正守は眉を顰めた。



「傷ならお前の方が多いだろう」

「べつに…おれは」



良守は何かを言うのを逡巡するかのように、言葉を出さず口だけを動かした。

それから顔を下に伏せ、



「父さんが、ご飯だからって」



それだけ言うと良守は正守に背を向け、開けた時とは真逆に音を立てず襖を閉めた。













正守がいるせいか、いつもより早く烏森へ向かった良守はやたらめったらに妖を滅していた。

自棄になっていたり苛ついている時の特徴らしく、時音も白尾も斑尾も呆れている。

しかし、空高く、結界の上に立ちそれを見下ろしていた正守は眉を顰めたままだった。

がむしゃらに敵に突っ込んでいく様子は、自分の弟でなければ恐らく軽蔑に値した。

生憎にも良守は弟だから、心配で仕方がない。あんな戦い方が許されるのはこの地だけだ。確かに黒芒楼のときも無道のときも、良守の力の暴発のおかげで事が収束した。けれど、「暴発」はいつも起こるわけではない。

良守の場合、恐らくそこに「守るモノ」がなければいけないのだろうと正守は踏んでいる。

だからこそ、良守は良守なのだけれど。



妖が出てくる時間も過ぎ、見回りも終えたらしい時音が帰路につく。

けれど良守は帰ろうとしなかった。どうやら居残るつもりらしい。

恐らく文句でも言っているであろう斑尾に向かって手で追い払う仕草をしていた。

けれど斑尾は、一応主人としている良守を置いて帰ろうとはしない。

結局、斑尾も良守が心配なのだろうと苦笑し、それから正守は良守の元へ降りていった。



「お前ね、その装束だって安くないんだから」



良守が傷を受けると言うことは即ち着ているものにもダメージがあるということだ。

暗に良守の無防備を非難すると、それがわかったのか良守が思い切り顔を顰めた。



「うっせ」



身軽に空から降りてきた兄に、良守は驚きはしなかった。正守がいることを知っていたようである。

そんな弟に溜め息を吐くと、良守はそれにびくりと体を震わせた。



「?」



けれど正守がその理由を理解する前に、良守は背を向け裏庭の方へと足を向けた。



「良守、いい加減にしないと明日、遅刻するぞ」

「うっせー」

「それに傷口も化膿するぞ」

「烏森にいれば少しはよくなる」

「へー、でも酷いのあっただろ」

「…っ見てんなよっ」



焦ったように良守は正守をふり返り、唇を噛みしめた。

斑尾がその様子に溜め息を吐く。

それには反応しない良守に正守は少し首を傾げた。

そんな正守をどう思ったのか、良守は逃げるように裏庭へと走っていった。



「斑尾、あんなんでもお前の主人だろ。コントロールしろよ」

「…されるような子なら主人なんて思わないけどねぇ」



けらけら、と嗤いながら良守の後を追う斑尾を見て、正守は少し羨ましいなと思う。

あれは、時に正守のように辛らつな言葉だって吐くだろう。なのに、隣にいることを許されているのだ。



7つも離れた兄というだけで、良守にあんなに邪険にされるなら、兄貴なんてやってられないなぁと正守は思いつつ、裏庭へと足を向けた。









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