正良未完
目指せ修復
「兄貴」
「なに?」
蔵にある巻物かなんかが読みたかったらしく、兄貴が帰省してきていた。
こないだの事件(無道)で携帯を貰ってから、なんとなく兄貴が俺を嫌っている訳じゃない気がしてきていたところで。
今回も父さんにメールするより俺にしてきたし(単に父さんがネットに繋いでいる可能性が低いからかもだけど)。
思い切って巻物を読んでいる兄貴の部屋に入ってみた。
「あのさ、その……」
「なに?」
別に鬱陶しがっている様子もないので、安心して。意を決する。
「あのさ、兄貴はさ、俺のこと嫌い、じゃないんだよな…?」
「まだあの時のこと気にしてるのか?嘘だって言ったろ?」
あの時、というのは無道に向かって兄貴が嘘を言ったことなのだけれど、そんなことはぶっちゃけ、昔から思っていたことなので今更ショックだったとかいうよりは、やっぱりなっていう方が大きくて。
で、それを嘘って兄貴が言っていたし。
「そうじゃなくて、なんつーか。あのさ、俺、兄貴が俺のこと嫌いだって思ってたから、その」
「ん、前からってこと?」
「うん、そのさ。俺、兄貴に嫌われるのがわかってたっていうか、だから…」
上手く言えずに下を向く。畳の目に爪を立てて、決めたはずなのに中々癒えない自分に腹が立つ。
「その、なんていうか」
けれど、長年腹に抱えてきた思いを本人に吐露するのは中々勇気が要ることで。
一言で言えないのだろうか、と頭を巡らせる。
「良守?」
「だから…えと。兄貴が、俺のこと…」
「落ち着けって、良守。何が言いたいのかわかんないんだけど」
兄貴の言葉に、上手く言えない自分に腹が立って悔しくて。
じんわり、目の周りが熱くなる。やば。
「え、なんで泣く!?」
「うー…」
泣きたくないのに、ぼろぼろと涙がこぼれる。
子どもの頃、兄貴に嫌われていると思った時、そんな気分で。そうじゃないのに。
あれはトラウマになって、しまっているのだろうか。
そんな俺を見て兄貴が溜め息を吐いた。
呆れられたか、怒らせたか。
思わず身体が固まった所を、兄貴に抱き寄せられる。
こんなのは、子どもの頃以来で。
「落ち着けよ。どうした?」
子どもの頃泣いてばかりだった俺は、こんな感じで兄貴に抱きついて。背中を撫でてもらっていた。
懐かしさに、少しだけ落ち着く。
「あ、にきが……」
「うん?俺はお前のこと嫌いじゃないって言ったろ?」
あの頃の兄貴は俺より随分大きくて、座っていても俺の頭は兄貴の胸元にしか届かなかった。
今じゃ肩口に額を押し付けられる。
その事実が少し淋しいと思ったのは何故だろう。
「俺、は…兄貴が、おれを嫌いって思ってたから……」
「うん」
「だから、俺、そ、ゆ態度とって」
「うん」
「したら、哀しくないから、俺も兄貴を嫌いだって思いこめるから…」
「うん」
「だから、…ごめんって言おうって思って」
「うん、ありがとう。言ってくれて」
背をずっと撫でられ、子どもの頃に戻ったような気分で甘えたような口調になった。
それでも兄貴が優しい口調だったから、ほっと息を吐く。
袖を掴んでいた手を、そろっと兄貴の背中に回したらぎゅっと抱きしめられて。
嬉しさに目を瞑る。
「ねぇ、良守」
「ん?」
「えっち、しようか。仲直りに」
「……………んん??」
空耳だろうか。空耳に違いない。
俺はきっと泣きすぎて兄貴が言ったことが聞こえなかったのだ。
「ごめん、もっかい言って」
「だから、仲直りにえっちしよって」
聞き直しても同じ単語が聞こえてきて、硬直した。
なんだ、これは。兄貴の冗談か??
っていうか嫌がらせ?ってことはやっぱり嫌われてる?
引っ込んだ涙の代わりに、冷や汗がダラダラと流れてくる。
「良守?しちゃうよ?」
「し、し、しちゃうって…っ」
「だぁから、えっち」
今度こそ聞き間違えではないことが分かって、俺は兄貴から離れようとするががっちりと腰に回した腕で固定されていた。
汗が止まらない。
「じょ、じょーだんだろ…?」
「なんで?だって良守は俺のこと好きでしょ。俺も好き」
「きょ、兄弟…っだから、その好きはっ」
「うん、俺は良守が弟だから好きだけど」
「い、いみわかんねっ」
ケツを撫でられ、悲鳴を上げてしまう。
すると、兄貴が結界を張った。
やばい、本気だ。マジだ兄貴は。
「や、やだっ兄弟だろ、俺達っ。そーゆーのは恋人とっ」
「うん、でも別に兄弟でやっちゃだめって法律はないしね」
「なんだそれっ」
なんとか兄貴の腕の中から脱出しようとしたが、視界がぐるんと回って一瞬目が回る。
次に見えたのは天井で。
俺に乗っかかってくる兄貴で。
俺は気が遠くなっていくのを感じた。
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後編へ続く。
「兄貴」
「なに?」
蔵にある巻物かなんかが読みたかったらしく、兄貴が帰省してきていた。
こないだの事件(無道)で携帯を貰ってから、なんとなく兄貴が俺を嫌っている訳じゃない気がしてきていたところで。
今回も父さんにメールするより俺にしてきたし(単に父さんがネットに繋いでいる可能性が低いからかもだけど)。
思い切って巻物を読んでいる兄貴の部屋に入ってみた。
「あのさ、その……」
「なに?」
別に鬱陶しがっている様子もないので、安心して。意を決する。
「あのさ、兄貴はさ、俺のこと嫌い、じゃないんだよな…?」
「まだあの時のこと気にしてるのか?嘘だって言ったろ?」
あの時、というのは無道に向かって兄貴が嘘を言ったことなのだけれど、そんなことはぶっちゃけ、昔から思っていたことなので今更ショックだったとかいうよりは、やっぱりなっていう方が大きくて。
で、それを嘘って兄貴が言っていたし。
「そうじゃなくて、なんつーか。あのさ、俺、兄貴が俺のこと嫌いだって思ってたから、その」
「ん、前からってこと?」
「うん、そのさ。俺、兄貴に嫌われるのがわかってたっていうか、だから…」
上手く言えずに下を向く。畳の目に爪を立てて、決めたはずなのに中々癒えない自分に腹が立つ。
「その、なんていうか」
けれど、長年腹に抱えてきた思いを本人に吐露するのは中々勇気が要ることで。
一言で言えないのだろうか、と頭を巡らせる。
「良守?」
「だから…えと。兄貴が、俺のこと…」
「落ち着けって、良守。何が言いたいのかわかんないんだけど」
兄貴の言葉に、上手く言えない自分に腹が立って悔しくて。
じんわり、目の周りが熱くなる。やば。
「え、なんで泣く!?」
「うー…」
泣きたくないのに、ぼろぼろと涙がこぼれる。
子どもの頃、兄貴に嫌われていると思った時、そんな気分で。そうじゃないのに。
あれはトラウマになって、しまっているのだろうか。
そんな俺を見て兄貴が溜め息を吐いた。
呆れられたか、怒らせたか。
思わず身体が固まった所を、兄貴に抱き寄せられる。
こんなのは、子どもの頃以来で。
「落ち着けよ。どうした?」
子どもの頃泣いてばかりだった俺は、こんな感じで兄貴に抱きついて。背中を撫でてもらっていた。
懐かしさに、少しだけ落ち着く。
「あ、にきが……」
「うん?俺はお前のこと嫌いじゃないって言ったろ?」
あの頃の兄貴は俺より随分大きくて、座っていても俺の頭は兄貴の胸元にしか届かなかった。
今じゃ肩口に額を押し付けられる。
その事実が少し淋しいと思ったのは何故だろう。
「俺、は…兄貴が、おれを嫌いって思ってたから……」
「うん」
「だから、俺、そ、ゆ態度とって」
「うん」
「したら、哀しくないから、俺も兄貴を嫌いだって思いこめるから…」
「うん」
「だから、…ごめんって言おうって思って」
「うん、ありがとう。言ってくれて」
背をずっと撫でられ、子どもの頃に戻ったような気分で甘えたような口調になった。
それでも兄貴が優しい口調だったから、ほっと息を吐く。
袖を掴んでいた手を、そろっと兄貴の背中に回したらぎゅっと抱きしめられて。
嬉しさに目を瞑る。
「ねぇ、良守」
「ん?」
「えっち、しようか。仲直りに」
「……………んん??」
空耳だろうか。空耳に違いない。
俺はきっと泣きすぎて兄貴が言ったことが聞こえなかったのだ。
「ごめん、もっかい言って」
「だから、仲直りにえっちしよって」
聞き直しても同じ単語が聞こえてきて、硬直した。
なんだ、これは。兄貴の冗談か??
っていうか嫌がらせ?ってことはやっぱり嫌われてる?
引っ込んだ涙の代わりに、冷や汗がダラダラと流れてくる。
「良守?しちゃうよ?」
「し、し、しちゃうって…っ」
「だぁから、えっち」
今度こそ聞き間違えではないことが分かって、俺は兄貴から離れようとするががっちりと腰に回した腕で固定されていた。
汗が止まらない。
「じょ、じょーだんだろ…?」
「なんで?だって良守は俺のこと好きでしょ。俺も好き」
「きょ、兄弟…っだから、その好きはっ」
「うん、俺は良守が弟だから好きだけど」
「い、いみわかんねっ」
ケツを撫でられ、悲鳴を上げてしまう。
すると、兄貴が結界を張った。
やばい、本気だ。マジだ兄貴は。
「や、やだっ兄弟だろ、俺達っ。そーゆーのは恋人とっ」
「うん、でも別に兄弟でやっちゃだめって法律はないしね」
「なんだそれっ」
なんとか兄貴の腕の中から脱出しようとしたが、視界がぐるんと回って一瞬目が回る。
次に見えたのは天井で。
俺に乗っかかってくる兄貴で。
俺は気が遠くなっていくのを感じた。
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後編へ続く。
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